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その日、俺――――鳴海信二は、野球の全中に出場していた。
高也の三本のホームランのおかげもあるとはいえ、俺のミスで二点失点。三―二の状況だ。体力はもうほぼ限界……しかし、後一人、それも、後一個ストライクを取れば、勝てる。
外野は相変わらず、座ったり、近くの守備連中と話したりと、全く緊張感などない。打たれてそこに飛ばされても、誰も取らない始末だ。
今もこうしてタイムを取っても、キャッチャーである坂上高也しか集まってくれない。嫌われたものである。
『信二……どうする?』
ミットで口を隠し、聞いてくる。
『……ストレート、真っ向勝負で戦おう。 打たれて点が入っても、次はお前が打席なんだから、また勝ち越せるし』
『了解、この一球、きっちり投げよう』
言って、マスクを付けて、戻ってゆく。俺は左手に握られた球を強く握り、構える。高也が就き、再開の合図が出される。
――――いくぞ。
アイコンタクトを交わし、ワインドアップ。
やがて、俺の腕から、今大会最高のストレートが――――放られた。
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