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見上げると、女よりも
綺麗な微笑があった。
思わず目を反らす。
だが、
「…私は君が嫌いだ。
その粘着質な声も仕草も嫌いだ。
私は今1人になりたいんだ。
早く班に戻ってくれないか」
「俺はれい好きだからー、一緒に行くよー♪」
「そうか、それは迷惑だ」
奴が私の顔を覗きこむ。
苛立ったような不機嫌な瞳。
一瞬にして真逆の表情へ変わる。
女子たちはこれに惚れたのか。
あえて目を合わさない。
気がつくと、奴の肩の向こうに
女子が1人いる。
確か、こいつの彼女。
ひきつった顔も綺麗な女子だな。
奴の顔が近づき、唇が、
沈黙。
奴の顔が、張り詰めたものから
心底驚いたという顔に変わる。
「ええ!?れい、これでキュン☆とかー
ドキッ☆とかー、顔真っ赤ーとか
…ないの?」
…………
「わあ、怒った顔もきれいー。
けど睨むのはやめてー」
「この手を離してくれ、
茶番に付き合う気はない」
ちぇーと言いながら、奴が
背中に回した腕を解いた。
一歩、奴から離れる。
「言っただろう、断じて
ありえないと」
「残念、本気なのにぃ。
ていうか俺ー、昨日とそんなに
しゃべり方違うー?」
未だ熱い自分の腕に手をあてた。
「ああ、少なくとも今よりは
綺麗な声だったよ
」
奴の表情が一瞬固まり、
泣きそうな笑顔に変わった。
「…綺麗、か。
酔ってたからかなぁ。
そうか…じゃあ」
「城崎」
奴がズボンで自分の左の掌を
ごしごしとこすった。
「本当に。
友達からじゃ、だめですか?」
奴の真っ赤な顔と
真っ直ぐな視線と
左手が差し出された。
思わず微笑がもれる。
――綺麗な声だ。
昨夜の記憶が駆け巡る。
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