仮面の本音

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他の部屋にいればいいのでは と言われたが、それも癪なので そうする、と言いながら 外に出てきた。 外に出るには、先生の部屋の前を 通らなければならない。 そろりそろりと足音をたてない ように歩いたが 先生は先生たちで飲み会を しているようで、廊下まで 笑い声がきこえてきた。 この調子なら、あの部屋の何かも 私がいないことも気づかれない だろう。 外は風がつめたい。 風呂に入った後の火照った身体を 芯から冷ましてゆく。 旅館が貸す浴衣一枚では 酷く寒い。 上着をもう一着持ってくるべき だったな。舌打ちする。 旅館の入口を出ればすぐに駐車場 がある。確か駐車場の奥に、 東小屋がある。そこで一晩過ごす つもりだった。自販機もあった はずだから、コーヒーでも買うか。 東小屋から見下ろす街は 綺麗だった。 コーヒーの湯気と、白い吐息が すぐに消えてゆく。 「れいはそういうの 興味ない、よね」 先ほどの友達の声を反芻する。 友達が秘密にするようなことに 興味はない。 ただ、友達との壁を感じる。 「れいはみんなと違うしね」 前にふと言われた。 なぜときくと、 「れいは頭良いし、スポーツでも 何でもできるじゃん。なんか、 すごすぎて違う世界の人みたい」 1人がそう答えると みんながうなずいた。 ショックだった。 私はみんなと違うのか。 普通のことを普通に しているつもりだ。 壁をつくっているつもりもない。 なのに。 「あれ、城崎じゃん」
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