仮面の本音

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声の方を振り向くと、浴衣を 着流し、その上に上着を羽織った 男が立っていた。 人が来ていたことに気がつかなかった。 「喜瀬か」 知らないうちに同じ班になっていた奴。 片手にビニール袋を持ち、もう片方の手に缶。 奴も風呂あがりのようで 未だ身体から湯気がたっている。 「自慢のワックスも、流したのか」 「はは、嫌みかよ」 クラスの人気者、なのだろう。 授業中は静かだが 休み時間になると男女問わず 奴の回りに集まる。 優しい顔でみなを笑わせる冗談を さらりと言う。 きついこともたまに言うが、 その後のフォローを忘れない。 同じクラスになってまだ間もない 私が観ただけでも、 すごい奴だとは思う。 いつもは髪をワックスで決め、 制服も着崩している。 今は髪を風に流し 浴衣を着流している。 それが似合っているんだから、 女子が騒ぐのはわかる気がする。 「喜瀬はこんなところに 何しにきたんだ」 「ああ、相部屋の奴らみんな 出掛けてさ。しょうがないから 1人で一杯やろうと思って。」 そう言って缶を私に見せた。 缶ビールだった。 もう片方の手の袋の中も 缶ビールや酎ハイやらの 酒類らしい。 「となり座っていい?」 「ああ、構わないよ」
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