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「356呼び出しかけて」
雑音を交えた声がインカム越しに俺に命令する。
アルバイトの俺は、ただそれに従うだけだ。
「了解です」
パチンコ台に長時間玉だけ放置されていている場合、店内放送をかけて呼び出さなければならないのだ。
俺は356番台の前に立ち、マイクを握った。
スピーカーが俺の声を肥大させる。
「本日はご来店いただ……」
「ちょっと待ってよ!」
358番台に座っていた客が、呼び出しをする俺の視界に割り込んだ。
あれ、どっかで見た顔だな。
あ、昨日のおばちゃんか。
「掛け持ち禁止ですよ」
一人で複数の台を確保することを『掛け持ち』という。
「だって全然出ないんだもん」
「でもルールですから」
こんなことをする客は日常茶飯事だ。
俺は怒るわけでもなく素っ気なくおばちゃんに玉を返した。
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