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得体の知れないそれは、ゆっくりと先ほどまで俺がいた布団に近づいていく。
全く、上下に動かずに移動していた。地面が勝手に動いているかのように水平に。
俺の布団の上に到達したものの顔が、月明かりによって照らし出される。
生気のない青白い顔に、紫色の唇。目には光が宿っていなく、生きているとは到底言えない。服は着物を着ている。
額に嫌な汗が浮き出てくる。ここにきて俺は、ようやく恐怖を感じた。
さっきまでは、美優の奴がこっそり侵入してきたのかと、心の底で考えていたから、ここまでの恐怖はなかった。
だけど、今は違う。距離にして三メートルにも満たない距離に、異界のものが存在している。
俺の口が勝手に震えて、歯同士がぶつかりあいカチカチという小さな音をたてる。
その音が鳴らないように必死に手で抑えようとするのだが、手が震えて上手く動かせない。
女の視線と、俺のそれがぶつかった。
見つかった。どうしよう、俺まだ未練があるので死にたくないのだが……。
女はまたもや水平に移動して、俺の方に近づいてくる。
近づいてくるたびにさっきよりも、顔がはっきりと見えた。
額から血を流している。
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