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これで残るはダメガネだけだ。
こいつなら喧嘩の弱い俺でも勝てる見込みはあるから、罠は用意していない。
こいつは絶対に手を出して来ないって確信してたからね。小心者は力の強い者の後ろに着き、事の成り行きを見守るだけだろうからね。
俺は個室の扉を開けた。中開きの扉だから、前にいた奴が邪魔にならなくてよかったわ。
俺が個室から一歩踏み出すと、そこには座り込んでいるダメガネの姿が見えた。
「ヒッ」
軽く睨んでやったら、すっかり怯えた声出してやがんの。
床にブチまかれているローションを踏まないように歩き、二人を乗り越えていく。
ダメガネの目の前に着いた時、事態は動き出す。
ダメガネの後ろにいる、鉄トレイが頭に当たり、気を失っているであろうニートが動き出したのだ。
マジかよ。掃除用ロッカーって言っても、高さは三メートルほどあるんだぞ?
そして、バケツの上に置いて高さが少し上がっているんだ。
なのに、動けるなんて。こいつは化け物か?
「なに驚いた顔してるんだ、被害者くん。俺がこんな罠にかかるなんて思ってるのかよ。こんな見つけやすい紐を使ったのが間違いだったな。いくら白とはいえ、扉から出て、上の方に向かっていたら誰でも気づくさ」
ちっ。気付かれてたか。馬鹿そうな顔してるから、あれで大丈夫かと思ってたのだが……。
たぶん、あいつの頭には当たってないんだろう。腕かなにかでガードしたのかな?
「くくくくくく。一度負け組に落ちると、一生勝ち組には戻ってこれないんだぞ? 被害者」
「さっきからなんだよ、被害者被害者って、うるさいんだよ!」
怒鳴りながら、俺は一歩、一歩と後ろに下がる。
ニートはそれに合わせるようにゆっくりと近づいてきていた。
「なーにを忘れた振りをしてるんだよ。あんな事があったのに、忘れるなんて事はあり得ないだろう?」
あんな事? なんの事だよ。
いや、今はこの事はどうでもいい。とりあえず後ろに逃げろ。
体中から汗が噴き出してきた。冷たい、汗だった。
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