そいつは突然現れた

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洗面所で歯磨きしていたら、目の前の鏡に、上半身裸の男が映った。 「おはよう…」 ごく当たり前のように、その男は言う。 「誰…?」 わたしは、思わずのけぞった。 「聞いてない?」 ―き、聞いてませんけど、何も…。 香奈子さんが、大慌てで駆け込んできた。 「まりんちゃん、ごめん。…航平、あんた、そんな格好でうろうろしないでよね」 ―どうなってるの? 「ごめんね。息子の航平、…夕べ当然、帰って来ちゃってさ」 「航平です。よろしくね」 ―よろしくって?  「とにかく、あんた、服着てきてちょうだい」 香奈子さんに追い出されるように、航平という男はしぶしぶ洗面所を出て行ったのだけど…。 わたしは…何が何だかさっぱり…。 朝食の時、香奈子さんに聞いたところによると、話はこういうことらしい。 航平、…たしか25歳、は、先月突然、リストラに遭った。結果、アパートの家賃は払えず、電気、水道も止められ、実家であるこの家に戻ってきたと。 パパと香奈子さんとわたし…3人での生活が始まって、2ヶ月が経っていた。香奈子さんはパパの再婚相手。まあ、新しいママってわけなんだけど、やっぱり、香奈子さんは香奈子さんでしかない。わたしもママが欲しいって歳でもないし、パパの幸せ邪魔するほど子供でもないしね。 香奈子さんは、さっぱりした性格の人で、ちょっと大雑把でだけど、悪い人じゃない。容姿もどちらかと言えばキレイかな。パパより5歳も年上なのは、どうかと思うけど、…それはわたしがとやかく言う問題じゃないから。 そんなわけで、3人暮らしは順調だった。 …そこに突如現れたのが、航平って、わけ。 ああっ、つまり、わたしの兄さんってことになるんだ。
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