1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
洗面所で歯磨きしていたら、目の前の鏡に、上半身裸の男が映った。
「おはよう…」
ごく当たり前のように、その男は言う。
「誰…?」
わたしは、思わずのけぞった。
「聞いてない?」
―き、聞いてませんけど、何も…。
香奈子さんが、大慌てで駆け込んできた。
「まりんちゃん、ごめん。…航平、あんた、そんな格好でうろうろしないでよね」
―どうなってるの?
「ごめんね。息子の航平、…夕べ当然、帰って来ちゃってさ」
「航平です。よろしくね」
―よろしくって?
「とにかく、あんた、服着てきてちょうだい」
香奈子さんに追い出されるように、航平という男はしぶしぶ洗面所を出て行ったのだけど…。
わたしは…何が何だかさっぱり…。
朝食の時、香奈子さんに聞いたところによると、話はこういうことらしい。
航平、…たしか25歳、は、先月突然、リストラに遭った。結果、アパートの家賃は払えず、電気、水道も止められ、実家であるこの家に戻ってきたと。
パパと香奈子さんとわたし…3人での生活が始まって、2ヶ月が経っていた。香奈子さんはパパの再婚相手。まあ、新しいママってわけなんだけど、やっぱり、香奈子さんは香奈子さんでしかない。わたしもママが欲しいって歳でもないし、パパの幸せ邪魔するほど子供でもないしね。
香奈子さんは、さっぱりした性格の人で、ちょっと大雑把でだけど、悪い人じゃない。容姿もどちらかと言えばキレイかな。パパより5歳も年上なのは、どうかと思うけど、…それはわたしがとやかく言う問題じゃないから。
そんなわけで、3人暮らしは順調だった。
…そこに突如現れたのが、航平って、わけ。
ああっ、つまり、わたしの兄さんってことになるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!