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《愛姫side》
私には許嫁の方が居た。
その方の名前は梵天丸様。
才がありながら驕る事なく努力を惜しまない人。
けれど、何故か梵天丸様は私に勝てなかった。
あの日もそうでしたの。
「オホホ、また私の勝ちですわよ」
「う~!おまえ、ズルしてるだろ!!」
「失礼ですわよ。
梵天丸様が手加減するなと申したのではありませんか!」
あの日は剣術の稽古をしていて私と梵天丸様とで勝負を致しましたの。
いつもと同じ台詞を私は梵天丸様に返した。
いつもの梵天丸様なら悔しがりながらも次こそはと言っていた。
“いつもの梵天丸様なら”
「何だよ!何でも出来る愛なんか嫌いだッ!」
返ってきたのは鋭い言葉。
胸を刀か何かで貫かれたような痛みが走るのが分かった。
悲しくて悲しくて俯くしか出来ない。
「………分かりましたわ」
「え?」
「梵天丸様がいいと言うまでこの地には参りません!!
ご安心下さいませ、貴方様の嫌いな愛めは来ませんわ!」
漸く顔を上げられた。
頬には何かが伝う感触……。
それが涙だと初めは気が付かなかった。
あれ以来、私は梵天丸様とお会いしていない。
梵天丸様が嫌がるのなら私は二度と梵天丸様の元に行かない。
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