1,相談者

3/12
前へ
/27ページ
次へ
     蝉時雨がやってくると夏が来たような気分が訪れる。 夏の何とも言えないけだるさを払いのけ、自転車のペダルを一生懸命漕いでいる。 そう、遅刻しそうなのだ。 「遅い、遅い。このままじゃ遅刻しちゃうよ」 後ろの荷台から急かす声が聞こえてくるが、返事をする気にもなれない。それほどまでに追い詰められている。 「聞いてるの?」 「聞いてる、聞いてる。急げってのだろ?」 とうとう怒りを買ってしまった。 先程から何度もこのやり取りを繰り返している。 僕の自転車の後ろの荷台に乗っているのは幼なじみの西岡 聡美。 髪は黒く背中近くまでの長さである。 また、茶色い瞳や通った鼻筋など、顔立ちは整っており、男受けはとても良い方である。 ただ性格に難あり。 しかし、人の心を掌握する術を心得ており、他人には裏は決して出すことはない。 ただ少し変わった面もある。 それは後々分かるだろう。 こいつは、こんなに遅れてるのは誰のせいだと思っているのだろうか。 それに、どうして後ろに乗っているのだろうか。 そんな疑問はすぐに次の聡美の一言で掻き消された。 「急げ!!急げ!!あと10分!!」 「やっべ」 僕は後ろに猫科の虎を乗せ、学校へと向かった。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加