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蝉時雨がやってくると夏が来たような気分が訪れる。
夏の何とも言えないけだるさを払いのけ、自転車のペダルを一生懸命漕いでいる。
そう、遅刻しそうなのだ。
「遅い、遅い。このままじゃ遅刻しちゃうよ」
後ろの荷台から急かす声が聞こえてくるが、返事をする気にもなれない。それほどまでに追い詰められている。
「聞いてるの?」
「聞いてる、聞いてる。急げってのだろ?」
とうとう怒りを買ってしまった。
先程から何度もこのやり取りを繰り返している。
僕の自転車の後ろの荷台に乗っているのは幼なじみの西岡 聡美。
髪は黒く背中近くまでの長さである。
また、茶色い瞳や通った鼻筋など、顔立ちは整っており、男受けはとても良い方である。
ただ性格に難あり。
しかし、人の心を掌握する術を心得ており、他人には裏は決して出すことはない。
ただ少し変わった面もある。
それは後々分かるだろう。
こいつは、こんなに遅れてるのは誰のせいだと思っているのだろうか。
それに、どうして後ろに乗っているのだろうか。
そんな疑問はすぐに次の聡美の一言で掻き消された。
「急げ!!急げ!!あと10分!!」
「やっべ」
僕は後ろに猫科の虎を乗せ、学校へと向かった。
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