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「別に婿が気に入らなかった訳じゃねぇんだ。年寄りのつまらん意地だ。あんな若造に娘を取られてたまるかってな」
父の、空元気のような笑顔を見て私はようやく口を開いた。
「父さんは……何も悪くないよ。ごめん、私が……」
私が謝ると父は、「お前は謝らんでいい」と優しく頷いた。
それからしばらく、二人とも口を開かず、ただ雨に打たれていた。
冷たい雨に濡れる父を見て、こんな雨早く止めばいいのに、と強く思った。
しかし雨は止まず、二人の間に降り続いた。
やがて、ぽつりと父が言った。
「結婚式は、いつになる」
私は驚いて父を見つめた。
「来年、になると思う」
私が言うと、父は嬉しそうに「そうか」と呟いたが、すぐ表情を曇らせた。
「すまんな……。式にも出てやれなくて」
私はまた首を振った。涙はまだ流れていたが雨で隠せると気付いたので父を真っ直ぐ見据えた。
そんな私に、父が優しく聞いた。
「どうだ。わしが死んだ後、ちゃんと前向きに生きてたか?」
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