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薄暗い廃墟の中、白い埃にまみれた青年は、その逞しい腕を真っ直ぐに伸ばすと、興奮した様子で壁に刺さった剣を指し示した。
「教授!」
青年が指し示す剣の柄には、様々な宝玉が埋め込まれ、鍔の側部には古代語らしき文字が刻まれている。彼が持参したランタンを剣へ近付けると、宝玉だけでなく鍔に刻まれた文字迄もがそれぞれに異なる色の光を発した。
「これは、実に興味深い」
呟くように話すと、教授と呼ばれた男性は、視界を明瞭にする為か、上着の裾で眼鏡のレンズを拭き上げた。
それから、彼は埃が拭われたレンズ越しに、見た事の無い紋章が浮かび上がった剣を舐める様に見つめる。そして、教授は気を落ち着ける為に大きな深呼吸をすると、小さく感嘆の声を漏らした。
教授の手は興奮によって震え、その瞳孔は大きく開かれている。彼は、冷たい空気が支配する廃墟の中であるにも関わらず、大きく荒い呼吸を繰り返し、額から大粒の汗を流していた。
「教授、如何致しますか?」
この時、既に冷静さを取り戻していた青年は、剣の扱い方を教授へと問い掛けた。
問い掛けられた教授は、暫く押し黙って考えた後、青年の方に向き直る。
「そうだな……いつも通り記録をとり、剣は持ち帰るとしよう」
教授は彼の質問へ答えると頷き、大きく息を吐き出した。指示を受けた青年は再び剣を見やり、大きく荒い呼吸を繰り返しながらも、調査用の道具を廃墟の床へ広げ始める。
「準備が出来ました」
青年は、大きくはっきりとした声で伝えると、腕を動かしやすいよう上着の袖を捲り上げる。
それから、彼は白い手袋をしっかりと嵌め、壁に刺さった剣や、その周囲の壁を丁寧に調査し始めた。
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