プロローグ

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 日が暮れ始め、廃墟内の空気が刺すように冷たくなった頃、青年は羊皮紙を自分の鞄に仕舞い込む。  そして、彼は顔に付着した埃を手の甲で拭うと、教授へ調査が終了した旨を伝えた。 「ご苦労様。では剣の運び出しにかかるぞ、壊さぬよう慎重にな」  そう言うと、教授は剣を興味深そうに見つめ、その柄へと静かに手を伸ばした。  ところが、教授が手袋越しに剣へ触れた刹那、その剣は跡形も無く砕け散ってしまう。剣が突き刺さっていた箇所からは黒い霧が吹き出し、二人はその霧の勢いに抗う事が出来ずに吹き飛ばされた。  その後、教授の体は激しく壁に打ち付けられ、その衝撃の為か彼は手足を痙攣させ、口からは白い泡を吹いていた。それでも、彼は残った気力を振り絞り、自分を吹き飛ばした力が何であるのかを確認しようとする。  しかし、打ち所が悪かった為か、はたまた、全身を強く打ち付けてしまった為であろうか、彼は辺り一面に吐瀉物をまき散らすと、首を動かす事すら叶わぬままに事切れた。  他方、青年は吹き飛ばされてからというもの、壁に体を寄り掛からせたまま動かず、その目は薄く開かれていた。 《我を……封じし忌々しい封印……今こそ……解かれん……》  青年は、謎の声に気付いて目を覚ますと、体中に走る痛みに耐えながら声のした方へ顔を向ける。  すると、彼の目線の先には、吸い込まれてしまいそうな程に黒い霧が、周囲を支配する様に生じていた。その凄まじい邪気に気付いた青年は、一度大きな深呼吸をすると、小さな声で何かを唱え始める。 《貴様……生きていたのか……》  しかし、再び謎の声が響き渡った刹那、青年は廃墟の凍てつく様に冷たい壁へ叩きつけられてしまう。その刹那、青年の声は途切れ、彼の全身からは力が抜けていった。 《死んだか……他愛の無い……だが……まだ足りぬ……我が魔力を完全に取り戻すには……まだ……》  低い声が響いた後、黒い霧は青年を取り巻くように集まっていき、それからゆっくりと消えていった。
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