0号室

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 そうして俺達のバイト生活が始まった。  大変な事も大量にあったが、皆が良い人だから全然苦にならなかった。  やはり職場は人間関係ですな、といった感じだ。  そんな一週間が過ぎた頃、友人の一人が不意に言った。 A「なあ、俺達良いバイト先見つけたよな」 B「ああ、しかもたんまり金は要るしな」  友人二人が話す中俺も、『そーだな。でももーすぐシーズンだろ? 忙しくなるな』と口挟む。 A「……そういえば、シーズンになったら二階は開放すんのか?」 B「しねーだろ。二階って、女将さん達が住んでるんじゃないのか?」  無機質な声で首を傾けた目の前の人物に、俺とAは『え、そうなの?』と声を揃える。 B「いや分かんねーけど。でも最近、女将さんよく二階に飯持ってってないか?」 A「知らん」 俺「知らん」  Bは夕方時、玄関前の掃き掃除を担当している為、二階に上がる女将さんの姿をよく見掛けるのだと言う。  女将さんはお盆に飯を乗せ、そそくさと二階へ続く階段に消えて行くらしい。  その話を聞いた俺達は、『へー』『ふーん』と言う様な感じで、特に気にする事もなく、何の違和感も抱いていなかった。  それから何日かしたある日、いつも通り変わらず廊下の掃除をしていた俺なのだが、見てしまったのだ。客室からこっそり出てくる彼女、女将さんを。  彼女は基本、部屋の掃除等はしない。そういった雑用を行うのは、全て美咲ちゃん。  そんな日常を知っていた事も含め、余計に怪しいと感じたのかも知れない。  初めは目を疑ったが、やはり女将さん本人で、その日一日中、悶々とした霧を胸に抱えてしまった俺は結局黙っていられなくて友人二人に話した。  すると、先ずAが思い出す様な仕草をしながら口を開く。 A「それ、俺も見たことあるわ」 俺「おい、マジか。なんで言わなかったんだよ」 B「それ、俺ないわ」 俺「じゃー黙れ」 A「だって何か用あるんだと思ってたし、それに、疑ってギクシャクすんの嫌じゃん」 俺「確かに」  
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