―第一章 臆病な私―

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明くる日、鏡の前で自分の顔を見ると、昨日泣きすぎたせいか下瞼が腫れていた。一睡も出来なかったのも、原因かもしれない。 けれど今日はこの家を……この街を……この国を発たなければならない。 「奈緒、そろそろ行くよ」 お父さんが呼んでいる。私はリュックを背負って、この住み慣れた家に別れをし、玄関を出た。 バタンッ、という戸の閉まる音は、とても切なくて……とても寂しくて……とても哀しかった。 家の前に停まっているタクシーに私たち三人は乗り込む。予め行き先を告げていたのだろうか、私たち三人が乗り終えると小さくエンジン音を響かせて、発進した。
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