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「赦してくれんじゃないのかね?あんたの親父さんも。いや、初めっから恨んじゃいないさ」
口角をつり上げて黒人が担架で運ばれていくフワフワを一瞥する。
「いい加減、あんたも救われてもいい頃合だろ」
「…………」
「あんたを赦せていないのはこの世で唯一人、あんた自身だけさ。
さっさと解放されちまいな。そんな泣きそうな拳を振られちゃ見てるあたしが堪らねぇ。」
缶ビールを片手にくわえ煙草の黒人に対していつもならつっこんでやるんだけど……。
変だな……。
視界が霞んでよく見えねーや。
「戦場(ここ)に来るのは何かしらの覚悟を持ってる奴だけだ。
自分自身と戦うために拳を握んなさんな。相手の誇りを圧し折るために拳を握んな」
マンガと真逆なこと言うな、あんた。
普通は『自分自身と戦うために剣を振りなさい』とかそんな感じなのに、相手を倒すために……ね。
「わかったらその女々しい涙拭きな。あんたのそんな姿見てもあたしが楽しくねーんだよ」
「泣いてねぇ。鼻水だよ」
「鼻水は鼻から出るから“鼻水”なんだよジャリガキ」
言って、黒人は俺に背を向けた。
その巨大な後姿を見て、俺は額から流れる血を拭くふりして涙を拭う。
「うる、せぇよ……余計な、お……世話だ」
嗚咽を混じらせた声は、会場の熱狂に掻き消された。
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