走れ小町

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あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの神社でサボタージュしていたかった。小町ほどの死神にも、やはり怠慢の情というものは在る。今宵呆然、お酒に酔っているらしい鬼に近寄り、 「おめでとう。あたいは疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに彼岸に出掛ける。大切な用事があるのだ。あたいがいなくても、もうおまえには賑やかな盟友がいるのだから、決して寂しい事は無い。おまえら鬼の、一番きらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。盟友との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえら鬼は、たぶん偉い種族なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」 酔いどれ鬼は、夢見心地で首肯いた。小町は、それから博麗の巫女の肩をたたいて 「お金の無いのはお互いさまさ。私が持っている、宝といっては、宵越しの銭だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、あたいの迎えが来たことを誇ってくれ。」 巫女は揉み手して、喜んでいた。小町は笑って人妖たちにも会釈して、宴会から立ち去り、神社の床下にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
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