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電話の内容は皮肉にも、友人の会社の広報に載せる写真撮影依頼だった。
‐プロに頼んでくれ‐
そう言って断ろうとしたのだが、友人は電話口でどうしとも、と言ってきかない。
別に腕を買われての事じゃない。単に予算の都合上の話らしい。
彼に借りもあった俺は、渋々承諾せざるを得なかった。
休みの日‐俺は依頼を果たすべく、鮮やかに紅葉した山に登った。
俺は写真の楽しさを思い出してしまい、ついあの『目』の事を忘れていた。
次々にシャッターを切り、ファインダーから目を離したとき…俺は人の視線を感じた。
そして訪れる違和感。
静寂、と言うには余りにも不自然な感覚。
風の音も木々が擦れ合う音すら聞こえない。
‐何だ?‐
そう思った瞬間、俺は『目』を失念していた事に気付いた。
途端に薄気味悪くなり、忙しなく動かした視線の先。
そこには、まるで俺を観察するかのように覗き込む瞳があった。
そうして俺は理解する。
いつも写真に映り込んでいたもの、先程感じた視線もこの瞳なのだと。
俺は震えながら道具をしまい、立ち去ろうとした。
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