25人が本棚に入れています
本棚に追加
初雪
それからも懲りることなく
僕は毎週、あの特等席であの子を見続けていた
彼女の周りに人だかりはできず
いつもお客さんはいなかった
彼女の前を急ぎ足で通り過ぎていく人達
誰一人足を止める人はいなかった
それでも彼女は
楽しそうに歌う
きっと歌うことが大好きなんだろうな
なんてぼんやり見つめていると
彼女は僕の目を見て微笑んだ
一瞬 時が止まる
えっ?
(そんなはずないよな、この距離だし)
気のせいだ
間違いない
気のせいだ
彼女に夢中になりすぎて最近は頭までおかしくなってきたみたいだ
そんなことを考えているうちに
彼女の演奏は終わっていた
(おー。パチパチパチ)
心の中で拍手を送る
すると彼女は僕のいる喫茶店に向かって会釈をした
(え!?)
そして喫茶店にいる誰かに向かって手を振っている
(誰だ!?彼女の知り合いがいたのかぁ)
慌てて周りを見渡す
しかし
窓際の席には僕以外誰もいなかった
(え!?俺??俺に手を振ってるの??)
キョロキョロして慌てる僕
ふと彼女に視線を向けると
彼女は手で口を抑えて笑っていた
僕は急激に恥ずかしくなって気づいていないフリをしてしまった
彼女はもう一度喫茶店に向かって会釈をして帰っていった
僕に手を振ってたのかな??
一瞬にして喜びが込み上げてきた
そしてそれと同時に後悔が押し寄せる
(なんで無視してしまったんだろう)
彼女の笑顔を踏みにじってしまったみたいでなんだか胸が痛くなった
結局僕は意気地無しなんだ
最初のコメントを投稿しよう!