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空腹で目が覚めるという事はままある事ではあるが、己の腹の虫が鳴る事で目が覚める事は、長い人生においてそうあることではない。
ルーク・トリスタンはそんな希少な経験とともに目覚めた。
気が付けばベッドの上。
ルークはベッドに横になったまま部屋を見回した。
おそらくはどこかの町の安宿だろう。部屋に備え付けの家具も決して良い物とは言い難い。
そしてテーブルにつっぷくする様に寝息をたてている少女が一人…
「…エリー・シューベルって言ったか…?」
「…ん」
まるでタイミングを見計らったかの様に目を覚ますエリー・シューベル。
「んっ、起きたのか。善意から代わりに戦ってくれたのには感謝するが、体調管理も大事だぞ。覚えておけ」
起きて早々に説教を始めるエリー。
このとき、ルークの直感が彼にこう告げていた。
こういう人間に説教をさせるな。異常に長くなるぞ。
…と。
「ああ、分かったから。ところで、ここどこだ?」
「ルーンソルトだが?」
ルーンソルト。
ルークがとりあえずの目的地としていた町であり、もっとも新しい記憶――エリー・シューベルと出逢った場所からは、徒歩でおよそ三日かかる町だ。
「んじゃあ俺は三日も寝てたのか?」
「いや、半日も寝てないな」
「は?んじゃどうやってここまで――」
「飛んできたに決まっているだろう」
「飛んで?」
「ああ。飛行術使えばすぐにつく距離だしな。……疲れるが」
なるほどなぁ~っと頷くルーク。
確かにそれならば合点がいく。
ルークは魔法を使えないので、空を飛ぶ事も出来ない。とても思い付かない方法だった。
「それよりも、お前、お腹が空いているのだろう?」
「ああ。何か食い物無いか?」
「少し待ってろ。今、何か作ってやろう」
エリーはそう言うと部屋を後にした。
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