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薔薇色のカーペットの上を歩く、着飾った小太りの中年男。全身に宝飾品を纏って恍惚とする彼に、ジュリアス=ルイネストは追従していた。
豪奢な宮中にはそぐわない、一切の装飾を排した白の外套を羽織る彼は、短い紅毛の隙から鳶色の目を覗かせて周囲に注意を払う。齢は二十歳前後だろうか。
その右手は、腰に佩いた剣から片時も離れない。姿態そのものに殺意を纏うジュリアスは、遠巻きにするだけの衛兵にも漠然とした恐怖を与えていた。
「ジュリアス、そんなに気を吐く必要はないぞ。城内には差し迫って危険があるわけでも――」
「その楽観的思考こそが最も危険なのです、陛下」
ジュリアスがそう釘を差した相手こそ、圧倒的な軍事力で大陸の覇権争いを制したカルム=ディスタリアスの末裔、ホッパー=ディスタリアスである。
ホッパーは恰幅のよい身体を揺らし、象の如く鈍重に歩を進めていく。背後に追従するジュリアスの目付きは、まるで虎のそれだ。
「ジュリアス、ここまででよいぞ」
そう言ってホッパーは立ち止まった。そこは、絢爛豪華に彩光を放つ宝石が無数に埋め込まれた、黄金の扉の前。ジュリアスはその言葉を聞くと、黙って頭を下げる。
「では、デルハルト様によろしくお伝え下さい」
「うむ」
平身低頭するジュリアスを残し、ホッパーは扉を抜ける。扉が閉まった事を確認してもなお、ジュリアスはしばらく頭を上げなかった。
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