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「あのー、よろしいでしょうか、ジュリアス様」
数十秒後、ようやく頭を上げたジュリアスへ、遠慮がちに兵士が話し掛ける。虎の目をしていたジュリアスの表情は、その面影を忘れさせるほど柔らかかった。
「何だい?」
「ジュリアス様に会いたい、という方が城門に来ております。女性でして、会えば分かると」
「名前は?」
「イルミナ、だそうです」
ジュリアスの態度に安心したのか、兵士の語り口は滑らかになる。しかし、ジュリアスはと言うと、その兵士の言葉に首を傾げていた。
「イルミナ……? 聞き覚えがないな……」
「では、追い返しますか?」
「……いや、いい。話くらいは聞いてくる。ありがとう」
ジュリアスはその兵士に深く頭を下げ、城門の方角へと早足で駆けていく。その様子を見て、佇立していた兵士たちは軽く会釈をし、その全てにジュリアスは笑顔で返した。
国王に重用されながらも、ほぼ雑用係と化している兵士たちにも分け隔てなく接する。そんな人柄からか、ジュリアスは城内の大多数の人間から信頼を得ていた。
「すまない、遅くなった。イルミナとやらを入れてくれ」
門番の兵士たちにそう声を掛けると、彼らは大人しく巨大な門を開いた。眩い陽の光が差し込む。ジュリアスはそこに、殺気にも似た強い気迫を感じた。
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