一章

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此の墓碑の名前は、在ってはいけない名前なのに。 深く刻まれた彼女の名前は、理解りたくない事実を僕の頭に流し込んだ。 「一稀が居なくなってから、もう一年経つんだなあ」 止め処なく思い出すのは、掌のあったかさ、初めて逢った時の笑顔、最後の‥‥。 頬を滴る水滴は、雨の粒か涙か、僕には判断がつかなかった。 「ほら、オレンジジュース持って来たんだ。二人とも大好きだった‥‥‥‥‥‥ それじゃ、また来る、ね」 僕は濡れた顔を袖で拭い、ジュースの缶を置いて、墓碑を後にした。
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