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「遊びすぎじゃねえか?ここに来る度に香水やらタバコの臭いが違うぞ、おまえ」
にじんだままだった涙が、息苦しさに押し出されてしまった。
頭の上から、大きな手の平がぽんぽんと押すから、たくさん、たくさん出てくる。
「もっと甘え上手にならねーとな。父さんも母さんも本当は心配してるんだぞ」
ちゃんと自分で道を選んで、その上で親の期待に沿った就職もして、自立していった人。
いつも親の視線はこの人に向けられていた。
私に注がれる愛情なんて、ないものだと感じていた。
正月とお盆にしか帰ってこないくせに両親から笑顔を引き出すこの人がうらやましかった。
だけど、2時間も離れたアパートに週末の度に訪れるのは、私もそんな兄が大好きだから。
「別に、お兄ちゃんになりたいんじゃないんだよ?」
「うん」
「...私も、お父さんとお母さんに大切にされたい」
「うん」
「私も、素直に甘えたい」
「おう、できるさ。現に俺にはできてる」
「うん...」
もう頭をぽんぽんするのをやめて欲しかった。
このままじゃ涙が止まらなくて干からびてしまう。
ぶっきらぼうで、思ったことをすぐ口にするけど、この人は私の味方。
干からびるのは孤独感に膨れ上がっていた気持ち。
「いつまでもここに居たんじゃあ、だめだろ?」
兄の言葉に頷いて不恰好に思いっきり鼻をすする。
顔にまとわりつく涙をぬぐったら、紺色のTシャツの色が少し濃くなってしまった。
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