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「さっさと帰れよー。俺にも自由な時間くれっつーの」
にやにや笑いの兄に、またぽんぽんと頭を叩かれたけど、今度は出てくるものがない。
「お兄ちゃん、女遊びもほどほどにね」
それまでそっぽを向いたままだった顔を上げて私を覗き込んだ兄は、変によじれたひょっとこのような表情になっていて私の笑いのツボをついた。
ぷっと吹き出した勢いのままにお腹を抱えて笑いながら、やっともらえた視線に安堵する。
途中、
「おまえに言われたくないわなー..」と、
ぼやいた兄の声に変にウケてひとしきり笑ったあと、
Tシャツの乾き具合を確認してから勢いよく立ち上がった。
時計の短い針が10の数字を指している。そろそろ帰る時間だ。
「ありがとう」
それだけ言って、タバコ臭い部屋のドアを開けた。
家ではいつものように母が夕食を用意して待っているはず。
今日は、ただいまを言って靴を脱ごう。
タバコの煙にゆらゆらと手を振られながら、私は兄の部屋を出た。
END
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