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墨を流したような闇と、重く澱んだ空気が辺りを包み込んでいる。
申し訳程度に小さな蝋燭に火が燈され、かすかな明かりを放っているが、周囲の闇は深く、灯はあまりその役目を果たしてはいない。
しかしその程度の事、夜目がきく私には、何の差し支えにもなりはしない。
そんな中を、私はゆっくりと歩いていく。
不意に腕に抱いていたモノを見ると、彼女はぴくりとも動かずに、されるがまま私の腕に抱かれていた。
手足をだらん、と力無く投げ出しているその様は、さながら精巧に作られた人形か――もしくは魂を抜かれた屍のようだ。
思わず笑みがこぼれる。
彼女こそが私の初めての贄であり、幕開けの狼煙となる。
部屋の真ん中まで歩き、そこに鎮座する台座の上に、彼女の身体をゆっくりと横たえる。
それから私も彼女の身体の上に寝そべり、その顔を優しく撫でる。
これから行う甘露を想像すると、鼓動が速まり、呼吸が徐々に荒くなった。
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