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時雨坂
「さぁ、それじゃ行ってくる」
所々が破れボロボロの具足に、錆の浮いた槍。
青年は粗末な戦支度を終えて、家を出た。
「お願いだから生きて帰って来て…手柄なんていらないから…」
妻は悲しげに目を伏せ、青年の背にすがりつく。
「心配するな…今度の戦でしばらくはこの辺りも静かになる。必ず帰って来る。畑を耕して、魚を釣って…暮らしていこう…生まれて来る子供と三人で」
そう言い残して青年は戦へ出かけた。
それが妻が夫を見た最後の姿だった。
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