時雨坂

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宿場町は、美濃と甲斐の境に位置している。 美濃の領主が斎藤家から織田家に変わり、信玄が死に、長篠での戦に破れた武田家が、滅亡に瀕している今、この辺りで戦もなく、四方を囲む山々は、秋の紅葉に彩られていた。 普段は、行き交う商人や旅人で賑わう宿場は、しかし、今は静まり返っている。 「また鬼にやられたって?」 この宿場一番の宿を構える、山門屋の主は、番台の上で、にがりきって煙管の灰を忙しく落としていた。
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