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「……ん…」
アイリスは顔に当たる冷たいモノで目を覚ました。
そっと目を開けると雨の粒が目に入り、ゆっくりと起き上がって目を擦る。
「……雨?」
気づけば、森に敷かれた道に一人仰向けに横たわっていた。
「……体……ダルい」
おかしい位に体が動かず、動かず度に骨が軋んでギシギシする。
「………っ」
クラッと眠気に襲われ、水溜まりに倒れ込む。
長い金髪が泥水に浸る。しかし、泥に塗れようが関係なかった。
このまま眠ってしまえばいい――……
何故かそう思えたから。
ガラガラガラッ
土砂降りの雨の中、一台の馬車が森の小道を進んでいたが、突然止まる。
困った従者が手綱を置くと、従者席から降りて馬車の扉を開く。
「……どうかしましたか…?」
中に居た主人が小首を傾げる。
足を組み、膝の上に白い手袋をした手を添える。
「……な、何故か。ひ、人が……そ、そそこに」
「……落ち着きなさい。人がなんなんですか?」
落ち着き払った声で従者をたしなめると、静かに問い掛ける。
「人が、倒れているんです!!!」
「………おやおや」
小さくため息をつくと、スッと脇にあったステッキを手に取る。
「一体誰でしょうね……私の敷地内で倒れている人は」
コツッと上品な靴が踏み出す。主人は馬車の入口から身を乗り出して前方を見据えると、穏やかな笑みを浮かべ、晴れて透き通った空を映したような瞳が細める。
「……これはこれは。どうしてあんな処に眠り姫がいるのだろうね」
白いシルクハットを被り直し、地面に足を踏み出すと、雨で白い服が濡れ泥が靴に跳ねるのも気に止めず、少女に歩み寄る。
しゃがむと、シルクハットのつばを伝った雨が綺麗な金髪に滴り落ちる。
手を伸ばすと、少女の頬に張り付いた泥に塗れた金髪を払った。
「……可哀相に……このままでは風邪を引いてしまう。私の屋敷に招いて上げよう」
ステッキを持ち直すと真っ白なスーツが少女の汚れに侵されるも、彼女を抱き上げる。
「エリック様……」
「戻ろう。陛下には使いをやっておいてくれ」
「しかし陛下は……!!」
「構わないよ。責任は全て私が負う」
ふと視線を落とし、少女を見るとクスッと笑みを漏らす。
「さて……エドガーはなんて言うかな……」
土砂降りの雨の中、馬車は元の道を引き返して行った。
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