序章 罪の行方

3/3
前へ
/18ページ
次へ
「……ん…」 アイリスは顔に当たる冷たいモノで目を覚ました。 そっと目を開けると雨の粒が目に入り、ゆっくりと起き上がって目を擦る。 「……雨?」 気づけば、森に敷かれた道に一人仰向けに横たわっていた。 「……体……ダルい」 おかしい位に体が動かず、動かず度に骨が軋んでギシギシする。 「………っ」 クラッと眠気に襲われ、水溜まりに倒れ込む。 長い金髪が泥水に浸る。しかし、泥に塗れようが関係なかった。 このまま眠ってしまえばいい――…… 何故かそう思えたから。 ガラガラガラッ 土砂降りの雨の中、一台の馬車が森の小道を進んでいたが、突然止まる。 困った従者が手綱を置くと、従者席から降りて馬車の扉を開く。 「……どうかしましたか…?」 中に居た主人が小首を傾げる。 足を組み、膝の上に白い手袋をした手を添える。 「……な、何故か。ひ、人が……そ、そそこに」 「……落ち着きなさい。人がなんなんですか?」 落ち着き払った声で従者をたしなめると、静かに問い掛ける。 「人が、倒れているんです!!!」 「………おやおや」 小さくため息をつくと、スッと脇にあったステッキを手に取る。 「一体誰でしょうね……私の敷地内で倒れている人は」 コツッと上品な靴が踏み出す。主人は馬車の入口から身を乗り出して前方を見据えると、穏やかな笑みを浮かべ、晴れて透き通った空を映したような瞳が細める。 「……これはこれは。どうしてあんな処に眠り姫がいるのだろうね」 白いシルクハットを被り直し、地面に足を踏み出すと、雨で白い服が濡れ泥が靴に跳ねるのも気に止めず、少女に歩み寄る。 しゃがむと、シルクハットのつばを伝った雨が綺麗な金髪に滴り落ちる。 手を伸ばすと、少女の頬に張り付いた泥に塗れた金髪を払った。 「……可哀相に……このままでは風邪を引いてしまう。私の屋敷に招いて上げよう」 ステッキを持ち直すと真っ白なスーツが少女の汚れに侵されるも、彼女を抱き上げる。 「エリック様……」 「戻ろう。陛下には使いをやっておいてくれ」 「しかし陛下は……!!」 「構わないよ。責任は全て私が負う」 ふと視線を落とし、少女を見るとクスッと笑みを漏らす。 「さて……エドガーはなんて言うかな……」 土砂降りの雨の中、馬車は元の道を引き返して行った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加