一章 帽子屋

2/15
前へ
/18ページ
次へ
私には、双子の妹が居た。 男勝りな私と違い、とても可愛くていつも私を頼ってくれる。 大好きな妹。 「アリス………」 「……ん…」 「あっ!起きた!!」 「!?」 途端に跳ね起きると全身の痛みで一瞬動きが止まる。 「ばっ!お前、怪我人なんだから寝てろ!!」 両肩を押されて無理矢理寝かされる。 「ここ……は?」 視線を巡らせると一応ちゃんとしたベッドに寝かされていて、見たこともない造りだと言うのが分かる。 「あ?国一番の職人が居る店を知らねぇの?」 「…職人……?」 意味が分からず、じっと青年を見る。 長い茶色の髪は肩口で一つに束ねられ、パッチリとした目は紅い。整っていると言えば、整っていると思う。 青年は黒い長袖のワイシャツを肘辺りまでまくり、腰にはエプロンを巻いていた。 「あー?俺の事をじっと見ても何も出してやらねぇぞ?」 「……貴方、誰?」 またもや、「はあ?」とした顔をされる。 「何?お前、この国初めての入国者?」 「…なにそれ……知らない」 「……マジかよ」 ガシガシと頭を掻くと、顎に手を当てて少し考えたような顔をしてから小さく息をついた。 「……ウチは初めての客はお断りなんだけどな。特別だぞ?」 念を押すように言ってから椅子に腰掛ける。 「ここはスウィーツランドって言う国だ。ここにはどの世界一流も手に負えないお菓子職人がたくさん居る。中でも、今お前が居る『帽子屋』は一流の中の超一流って訳」 「……へぇ」 とにかく適当に相槌を打つと、「てめぇな…」と睨まれる。 「言っとくけどな、兄貴の作る菓子は絶品なんだぞ!?二日に一度は女王陛下も頂く位、超逸品モノなんだぞ!?」 「……そうなんだ」 だんだんどうでも良くなって来て、余計適当になっていく。 相手はその態度が気に入らないのか、機嫌は下降線を辿る。 「……まあお前一応怪我人だから我慢してやる。……説明はこれくらいで良いな…?」 「うん……」 「ちなみに俺は『帽子屋美男子三兄弟』の内の次男のエドガーだ」 「ぷっ………普通ソレ自分で言う?」 「っ、うっせーよバカ!!ブス!!」 「は、はあ!?」 起き上がった瞬間、ドアを叩く音がした。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加