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「さて……下ごしらえは終わりかな」
タルト生地にクリームを流し込んだものを冷蔵庫の中へ静かに置く。
「兄貴」
「おや?何かあったのかい?」
キッチンに入ってきた弟の姿を認めると、くすくすと微笑む。
「なんだよ……」
「ふふ……いや、今日はエドガーが随分元気そうで安心しているんだよ」
下ごしらえの終えたチョコ板を一枚一枚冷蔵庫へ運ぶ。
「あ?それはどういう意味だよ」
「ふふ……そうだね……エドガーはいつも私が城に招かれると元気がないから、かな」
意表を突かれたような顔をすると、エリックから顔を逸らす。
「……エドガー…?」
「……んでだよ」
自分より頭一つ程背の高いエリックの両肩を掴むと、壁に押し当てる。
「なんで、兄貴が“城なんか“に行かなきゃならねぇんだよ!!!」
エドガーに掴まれた所だけ、白いエプロンがしわを作る。
そして、その胸板を叩く。
「……んで…だよ」
「………」
エドガーと壁に挟まれたエリックは遠くを見るように天井を見ていたが、弟の頭に優しく手を置く。
「エドガー」
「……」
「……すまないね」
ふっと顔を上げた弟の視線を振り切って、残りのモノを冷蔵庫へしまい始める。
「……私が城に行かなければ、『帽子屋』は成り立たなくなる」
「………」
「キミには理解しがたい事かもしれないが、職人が職人でなくなる事は何より辛い事なんだよ」
パタンっと冷蔵庫の扉を閉める。
(そう、死ぬよりも、ね――………)
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