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その夜、俺はルートの家をおとずれた。
3日ぶりだから、話したいことがたくさんある。
だが、俺はまず今日のことを切り出した。
新しいアジトを探したこと。そこにネコの親子がいたこと。結局、すみかを奪わないでやったこと。
順をおって説明し、一通り言いおわると、ルートが顔を輝かせた。
「いいなあ……うらやましい」
まったく外出できないルートは、この手の探険話をいつものようにききたがる。
「でも、アジトはつくれなかったんだ」
「いいじゃない。子育てとちゅうのネコから家をとるなんて、かわいそうにもほどがあるわ。考えてみなさいよ。ある日、あなたたちの地下のアジトにとってもこわーい巨人やモンスターが現れて、あなたたちを豆みたいにつまんで、みんないっしょに外にほうりだしちゃうの。そんなことをされたら、ぜったいにいやでしょう?」
俺は肩をすくめた。
ルートには本を読む習慣があって、しかも俺とちがって物語が多いから、そのぶん想像力が豊かだ。
よくもまあ、こんなに次々と連想できるものだと思う。
「……べつに。巨人やモンスターなんてかんたんにたおせるし。逆におれがほうりだしてやる」
「まあ」
俺が皮肉っぽくニヤリと笑うと、ルートもおかしくなったのか静かに笑った。
「たしかに、あなたならできないこともないわね」
余談だが、ルートは俺の力のことを知っている。
説明しておかないと、いきなり部屋に瞬間移動して現れることの説明がつかない。
それに人間っていうのは、自分の秘密を人とわかちあいたいなんていう衝動をもっている生き物だから、ついしゃべってしまう。話題がつきたときにぽっと出たわけだ。
ただ、第一に俺はルートを心底信頼しているし、ほかのだれかに言ってしまうほど口は軽くない。
それに、軟禁に近いかたちで隠れ家生活を送っているのだから、情報が拡散するなんてこともまずありえない。
閉めきられた箱の中で小鳥がいくらさえずろうと、聞こえる音量はたかが知れている。
「ネコの赤ちゃんは見たかったな……ねえ、かわいかった?」
「うん。そんなに見たいなら、連れてこようか? 今すぐ」
「ダメだってば!」
こうして談笑しながら、夜は更けていく──
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