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かぞえきれないほどのカラスがとびかい、たつまきのように旋廻していた。
広大な空がまっ黒に染まっている。
かれらは不幸を告げるためではなく――つみあげられた人間の屍肉をむさぼるために、そこにいた。
どんなときでも、死骸はひどい腐敗臭をただよわせる。
それは、おなじ人間だったことをわすれさせてしまうほどのもの。
だが、それ以上にひどい存在はこの世にごまんとある。
さきほどまでそばにいた戦友が、あたまを撃たれて死ぬ音。
そこからくる血の臭い。
耳をつんざく爆音。
地雷で肢体をうしなう同志。
死にゆく兵士の行軍。
戦闘機のうなり声。
土をかぶせただけの粗末な墓。
子供の泣き声。
やむことのない銃撃戦……
──そんな中に、かれは立っていた。
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