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息が切れる。
心臓が早鐘を打ち始める。
不安で胸が押し潰されそうだった。
―――どうして、こんなことになってしまったの―――。
きっちりとセットされた髪が乱れるのも構わず、エレナは王宮の中を無我夢中で走った。
もっと早く気が付けば良かった。
馬鹿だ。
私がもっと早く気が付いて手を打っていれば、父と母の身を危険に晒すことはなかった。
「どうかご無事で、国王、王妃―――」
祈りの言葉を口にしながら、エレナは純白のドレスの裾を掴み、ピカピカに磨き上げられている廊下を走り続ける。
―――その走る先に、祈り届かぬ未来が在ることも、知らずに―――。
大きな玄関ホールから外に出ようとしたそのとき、短剣の姿を象った髪飾りが、エレナの髪からポロリと零れ落ちる。
カシャンと小さな音がして、それは床に寝そべった。
―――これから起こる悲劇の旋律を奏でるように、それは虚しく音を立てた。
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