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「源太が私に先に言えと言うのです!」
流ノ介はプッと頬を膨らませながら後ろの源太を睨んだ。千明に叱られていた源太はそれに気づいて睨み返す。
再び喧嘩に発展しそうな二人の間を手で割いて丈瑠が先を促した。
「なにをだ?」
「それは」
くるっと丈瑠に向き直り膝に手を置いた流ノ介が唇を尖らせる。
「好き、と」
「はぁ?」
「…ハッ?」
丈瑠と千明の声が重なる。
「だからぁ、もう分かってんだからおめぇが先に言や良いだろぉ!?」
源太の文句が後に続く。
その声にどこかに飛んで行っていた意識を取り戻した丈瑠と千明。しかしぱくぱくと口を開閉させる千明もあんぐり口を開きっぱなしになってしまった丈瑠も声を発することはできない。
「おまえこそ!分かっているならなんで先に言わないんだっ!」
そんな流ノ介の反論にも何も言えない。
「おめぇが!先に言え!」
「おまえが!言えば良いだろう!」
てめぇ!貴様!おめぇが!おまえが!
「…もう、告ってんのと同じじゃね?」
漸く声が出たというようにぽつりと呟いた千明の言葉にも二人は頷かない。
続く応酬に丈瑠と千明の口から魂が抜け出ていっても止まらない彼らは、後に来た茉子の一言でその口を閉じた。
「惚気は余所でやりなさい」
冷たい瞳に晒された二人が「惚気てない」と反論することもできない程に凍ってしまい、結局彦馬が来るまで部屋には情けない四人の抜け殻が放置されることとなる。
end.
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