プロローグ1 王宮の若き英雄

7/12
前へ
/79ページ
次へ
「おい待て!」 レオンもすぐに走りだすが、扉までの距離が近いためゾスマに追い付くことはなく、そのままゾスマは半開きの扉をおもいっきり開けた。 バーン! 扉が壁に激しくあたる音と共に、部屋の中がゾスマの視界に広がる。 レオンはもうゾスマを止めることをやめた。額に手をあて、ため息をついている。 部屋の中は日光が十分に入っており、部屋の隅々が見える程に明るい。だがゾスマが部屋の隅々を見ることはなく、ゾスマはただ部屋の一点を見て固まっていた。 「あのレオン様……。こちらは……どちら様です?」 ゾスマの視線の先には一人の女性がいた。 髪の毛は腰まで届く鮮やかな金髪で、それに似合う大きな碧眼と、小さな顔を持つ、一見して美しいと思える女性。 しかし服は、王宮の女性使用人が身につけるものを着ているので、どこかの貴族の娘、というわけでもないことがわかる。 だが、ゾスマは彼女が王宮の使用人でないこともわかる。ゾスマは王宮にいる全ての使用人の顔を覚えているからだ。 全く知らない女性がこんな宮廷の外れで、しかも使用人の格好で目の前に佇んでいるというおかしな事態に、ゾスマは混乱した。 はぁ…… レオンのため息があたりを包む。 レオンはゾスマの問いに答えることはなく、ゾスマの横に移動する。そして廊下から部屋にいる女性に向かって声をかけた。 「マリー、もう少しだけ待っていてくれ」 そう言うと、マリーと呼ばれた女性は微笑みながら頷いた。 「はい、待ちますわ」  
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加