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「おい待て!」
レオンもすぐに走りだすが、扉までの距離が近いためゾスマに追い付くことはなく、そのままゾスマは半開きの扉をおもいっきり開けた。
バーン!
扉が壁に激しくあたる音と共に、部屋の中がゾスマの視界に広がる。
レオンはもうゾスマを止めることをやめた。額に手をあて、ため息をついている。
部屋の中は日光が十分に入っており、部屋の隅々が見える程に明るい。だがゾスマが部屋の隅々を見ることはなく、ゾスマはただ部屋の一点を見て固まっていた。
「あのレオン様……。こちらは……どちら様です?」
ゾスマの視線の先には一人の女性がいた。
髪の毛は腰まで届く鮮やかな金髪で、それに似合う大きな碧眼と、小さな顔を持つ、一見して美しいと思える女性。
しかし服は、王宮の女性使用人が身につけるものを着ているので、どこかの貴族の娘、というわけでもないことがわかる。
だが、ゾスマは彼女が王宮の使用人でないこともわかる。ゾスマは王宮にいる全ての使用人の顔を覚えているからだ。
全く知らない女性がこんな宮廷の外れで、しかも使用人の格好で目の前に佇んでいるというおかしな事態に、ゾスマは混乱した。
はぁ……
レオンのため息があたりを包む。
レオンはゾスマの問いに答えることはなく、ゾスマの横に移動する。そして廊下から部屋にいる女性に向かって声をかけた。
「マリー、もう少しだけ待っていてくれ」
そう言うと、マリーと呼ばれた女性は微笑みながら頷いた。
「はい、待ちますわ」
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