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「ああ、どうせ捨てられたか逃げてきたかしたんでしょうな。たまにいるんですよね、そういうゴミが」
「私もそう思ったんだ。だからボロ服と足枷を見た瞬間に、いままであった『助けようかな』っていう気持ちは消えたんだよ。腐った人までは流石に私も救わない」
王宮の人も例外ではなく奴隷を蔑む。子供の頃から、奴隷は『人になりそこねた者』や『腐った人』と教えられるからだ。
「だが、その奴隷が顔をあげて、その容姿が私に見えた瞬間、私は絶句したんだ」
「……? ……なぜです?」
「美しかったんだよ! その奴隷が! 化粧もしていない。ホコリで汚れている。髪もボサボサ。なのに、私の心を魅了した! 目が離せなくなる程に! これまで数多くの貴族の美しい女性を見てきたが、ここまで奴隷の女性に惹かれることになるとは思わなかった! これを運命と呼ばずに何と呼ぶ! この時、運命の女神であるミラ様は私に微笑んでくれたに違いない!」
「…………ちょっと待って下さい? その話からすると、さっきの部屋にいた女性は……」
「あぁ、『その』女性だ」
「はあぁぁー―――!? あなた、じゃあまさか奴隷をこの宮殿に連れ込んだってことですか!? この神聖な宮殿に!?」
「あぁ、そういうことになる」
「はい!? あなた、何をしているんですか!? この宮殿は使用人でさえ貴族の出の者しか使わないような世界の頂点の宮殿ですぞ!? そこに奴隷を!?」
「…………まあ、落ち着けゾスマよ。お前は知っているか? 美しい女の奴隷は遊女というものになるらしいぞ」
「……はぁ、だから何ですか」
「遊女とは男の疲れを癒す存在だ。さらに、遊女の中でも人気があり、お金を持って裕福になった遊女を『高級遊女』と呼ぶらしい。そして高級遊女は、時に貴族の妻として迎えられることもあると聞く。貴族なら宮殿に入っても良いのだろう?」
「…………だから?」
「奴隷でも美しければ宮殿に入ってよいのだ」
「なんでそうなるんですか!」
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