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部屋に入ると、ベッドの上で体を起こしているコトがいた。
「亮、また会えて嬉しい。ごめんね、会いに行けなくて」
「いいんだよ。コトが元気で居てくれれば」
「ごめんなさい、私……」
「いいから。僕はずっと傍にいるから」
そう言って優しく抱きしめた。
それから僕は、毎日コトの家に行った。大雨でも、猛吹雪でも会いに行った。
そして年が明けた。
コトは生きていた。医者も奇跡だと言っていた。
僕達はその日、一つの約束をした。今年も、夏の大三角一緒に見ようねって。
だけど、
もうすぐ夏休みという時、コトが体調を崩した。
そのままコトは、目覚めなかった。
大助さんが、高級そうな望遠鏡をくれた。
「これは娘が、次に夏の大三角を見るときに使うんだって大事にしていた物だ。君が受け取ってくれ」
僕はその望遠鏡を受け取ってコトの両親にお礼を言った。
「コトを産んでくれてありがとう」って。
それは僕とコト、亮と誠、両方の言葉だったんだと思う。
──そして今。僕はここにいる。高級そうな望遠鏡を立てて、紙コップに入ったコーヒーを片手に毛布にくるまっている。
でも夏の大三角は見えない。
曇っているから? 違う。
涙で空が見えないから? 違う。
──それはコトが居ないから。
コトが居ないから僕に夏はこない。
だから、まだ約束は続いているよ。コト。
早く来なよ、コト。一緒に夏の大三角見るんでしょ?
コトが来ないと雲が晴れないんだ。
来るまでずっと待ってるよ、コト。
──今日も空は、曇っている。
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