最初で最後の夏

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「ふわぁ~……。今日も大三角見れないのかな」 僕は、しっかりと整備された高級そうな望遠鏡から目を離した。 紙コップに汲んだコーヒーを片手に、毛布にくるまって一人曇り空を見上げる。 夏とはいえやはり一人は肌寒い。いつも傍で手を握ってくれていたはずの女性はもう居なかった。 ふと声が聞こえた気がして横を向くが、誰もいない。疲れているのだろう。無理もない、あんなことがあった後なんだから。 彼女との出逢いは高校2年の夏休み。今日みたいに肌寒い日、この丘で空を見上げていた時に出逢った。 「ねぇあなた。何してるの?」 そんな声がして顔を下ろすとそこには少女が立っていた。色白で、華奢な体つき。端から見れば病的とも言えるだろう。でも僕にはそんな気はしなかった。むしろ美しい、とさえ思った。 「ねぇってば、聞こえてないの?」 「えっ? あ、あぁ……、どうしたの? お嬢さん」 「だから何してるのって言ってるでしょ。それに私、あなたが思ってる程子供じゃないわよ。あなたうちの高校の人よね? 学年は?」 「2年だけど……」 「やっぱり。終業式の日見かけたからそうかなって思ってたのよね」 驚いた。こんな小さな子供が同じ学年だとは思いもしなかった。 「私、2年3組の平野 誠(ヒラノ マコト)。平らな野に誠実の誠って書いて誠(マコト)よ。あなたは?」
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