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「ですから──」
「待ちなさい」
女性がそこまで言った所で、男の人の声がそれを遮った。
「君は下がっていなさい。私は彼と話をするからね」
その口振りから、どうやらこの家の主のようだった。
「かしこまりました。では」
そう言って女性はその場を去った。
「さて、君は娘に何用かな?」
優しく語りかけてくる。僕の想像していたお金持ちと違うことに安心した。
「えっと僕、平野さんの顔が見たくて……」
「そんなに畏まらなくていい。誠を、いつも君が呼んでいるように呼んでみなさい」
「僕、コトに会いに来ました。コトは? 大丈夫なんですか?」
僕の本心からの言葉を聞いて満足したのか、男性はニコリと笑った。それから表情を一変させ、悲しそうに言った。
「今は少し体調が良くなったが、そう長くはないらしい。来年を迎える事が出来ないかもしれない」
愕然とした。この前まであんなに元気があったのに、もうあまり時間がないなんて……
「ところで君の名前は?」
「神崎 亮です」
「そうか、君が亮くんか。娘から話は聞いてるよ。私の名前は平野 大助(ヒラノ ダイスケ)だ。よろしく」
僕の話を家でしているとは意外だった。
「どんな話をされていたんですか?」
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