水中花1

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喪服の遊女の話を小耳に挟んだ。 水 中 花 前線へ赴いていった或る男、 そいつの護衛中(前線まで安全に『運ぶ』為の護衛だ)の事だ。 その時俺は未だ暗部にいた。 今回みたいな護衛は何度かやったけど あんまり気分の良いモノではない。 送る奴は死ぬんだもの 初夏で未だ肌寒い夜。 東に浮かんだばかりの月。 木々をすり抜けながら翳る様を仰ぐ。 隣には件の男。 見た目はまぁ、小柄でもないし、かといって大きい訳でもない。 特徴が有るとすれば忍には不似合いな優しげな声だろうか。 男の近い未来に対しての多少の同情と只の気紛れ。 移動中、安い身の上話を聴いてやった。 郷の話、 戦火に消えた家族。 火影への感謝云々。 他愛もない話に相槌を打ってやれば申し訳なさそうに笑む。 どっから見ても平凡で朴訥とした男。 そんな彼からは不似合いな話題がソレ。 『出る前に花街で最後の慰みを頂きました。  恥ずかしながら連れも居ないので・・・。  喪服姿の漆黒の髪をした女でした。  私のような忍の為の専属だそうで、何年も生きてきましたが  ハハ、遊郭にそんな役職があるなんて知りませんでしたよ。』 そんなもん在る訳がナイ。 そもそも、遊客の素性・身の上を詮索するのは御法度。 仮に何か事情が在るにせよ、客を区別するなんてコト、プライドを持って仕事をしている遊女には有り得ない話だ。 そもそも、そんな話聞いた事もない。 訝しんでいる雰囲気を取り違えたか 男は済まなそうに 「人様にする様な話題では無かったですね、申し訳有りません。いや、大門を潜(くぐ)ったのが初めてでして思わず・・・。」といって 此方の「構わないよ」と言う言葉を制し「そういえば・・・」と別の話を始めた。
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