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喪服の遊女の話を小耳に挟んだ。
水 中 花
前線へ赴いていった或る男、
そいつの護衛中(前線まで安全に『運ぶ』為の護衛だ)の事だ。
その時俺は未だ暗部にいた。
今回みたいな護衛は何度かやったけど
あんまり気分の良いモノではない。
送る奴は死ぬんだもの
初夏で未だ肌寒い夜。
東に浮かんだばかりの月。
木々をすり抜けながら翳る様を仰ぐ。
隣には件の男。
見た目はまぁ、小柄でもないし、かといって大きい訳でもない。
特徴が有るとすれば忍には不似合いな優しげな声だろうか。
男の近い未来に対しての多少の同情と只の気紛れ。
移動中、安い身の上話を聴いてやった。
郷の話、
戦火に消えた家族。
火影への感謝云々。
他愛もない話に相槌を打ってやれば申し訳なさそうに笑む。
どっから見ても平凡で朴訥とした男。
そんな彼からは不似合いな話題がソレ。
『出る前に花街で最後の慰みを頂きました。
恥ずかしながら連れも居ないので・・・。
喪服姿の漆黒の髪をした女でした。
私のような忍の為の専属だそうで、何年も生きてきましたが
ハハ、遊郭にそんな役職があるなんて知りませんでしたよ。』
そんなもん在る訳がナイ。
そもそも、遊客の素性・身の上を詮索するのは御法度。
仮に何か事情が在るにせよ、客を区別するなんてコト、プライドを持って仕事をしている遊女には有り得ない話だ。
そもそも、そんな話聞いた事もない。
訝しんでいる雰囲気を取り違えたか
男は済まなそうに
「人様にする様な話題では無かったですね、申し訳有りません。いや、大門を潜(くぐ)ったのが初めてでして思わず・・・。」といって
此方の「構わないよ」と言う言葉を制し「そういえば・・・」と別の話を始めた。
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