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男から聞いた話は、腑に落ちないところが多い。
黙って見過ごすわけにもいかなかった。
水 中 花 3
男の話はこうだ
前線へ赴く事が決まった。
彼には身寄りもなく、三十路の半ばを過ぎても功績を挙げているとは言い難い状況。
そして其れは今後も変わらないと言う事は周知の事実だった。
職務柄にも、その年齢で続けていくのは
残念ながら誰にとっても不毛でしかなく
悩み考えた結果、自分に残された道は
里の為に一生を尽くすか
経験を生かして転職するしか無かった。
最後まで忍らしく
結局、彼が選んだのは其れだった。
そんな彼を不憫に思った里長が、花街へ行く事を促した。
一度は断ったが、その様子を見て遊郭の名前まで指定してきた。
自分だって男だ。
興味がないわけでもない。
むしろ、随分早くに先に逝ってしまった妻に申し訳なく思う反面寂しくて寂しくて仕方が無かったのも事実。
火影様に此処まで気を遣わせてしまった自分に情けなさを感じながらも「其れなら」と任務前夜、その遊郭を訪ねた。
慣れない世界に尻込みしたが、
何とか目的の廓に辿り着く。
そこの女主人から先に声を掛けられた。
「お客さん、忍のモンだねぇ。しかし、見ない顔だ。初めてかい?」
「わ・・・解りますか?」
「そりゃあそうさぁ。可愛いから直ぐにねぇ」
クックッと喉を鳴らして、自分よりもやや年上の女は肩に手を掛けてきた。
死ぬ程恥ずかしくなって、黙りこくって居ると、済まない済まない、と少女に
(自分の道徳心ではおよそ信じられない位の年齢だ)部屋の案内を頼んで笑い声と共に奥へと下がっていった。
通された部屋は行灯(あんどん)が一つ置いてあるだけの薄暗い空間。
『失礼致します』と余り覇気の無い小さな声で案内の少女が消えていく。
その細々とした、手折れそうな姿に一瞬『もしや売られたばかりなのだろうか』と勘繰って痛ましい気持ちになった
来たことを少し後悔した・・・
そんな気持ちを遮る様に『お入りになって?』と、声。
行灯の先に居たのは・・・・
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