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――風の谷――
風の止むことの無いこの谷間の北側に、今回披露宴開場にもなっている高倉家の闘技場が建っていた。
そしてその向かい側には慰霊碑らしき物がそびえ立っていた。
闘技場の閲覧室では、じっとその慰霊碑を見つめる裕美の姿があった。
「あれが何だか分かりますか?」
不意に掛けられた問い掛ける声の方に振り返ると、そこには少し恐い表情の祐二が腕を組み壁に持たれるように立っていた。
「いいえ………何かの慰霊碑だと言うことしか……」
裕美がそう答えると、祐二はフッと失笑したのち裕美の方に近付きながら話しはじめた。
「私が何故この場所を選んだかと言うと、あの慰霊碑があるからです。 あの慰霊碑こそ、我が一族が存在した証なのですから……」
「証……?」
「そう……こここそ……この場所こそがあの忌まわしい決闘の地であり、私の先祖の怨念が宿る地でもあるのですよ」
慰霊碑をバックに裕美を正視しながら大きく両手を広げた。
その顔は憎しみに歪んでいて、笑顔のようでも哀しみにも見える表情だった。
だが同時に、ここで全ての決着を着けるつもりだと言うことが、裕美にもわかった。
「じゃあ、ここに零子も来るのね?」
「お察しの通り……この場所へ来るよう伝えてあります。 が、彼女が来るかどうかは……」
ニヤリと笑う祐二の横に立ち、空を見つめながら強く答えた。
「来るわ。 本当は来てほしくないけれど……零子は必ずここへ来る。 貴方との決着を着けるために……そして」
「貴女を救いに……?」
「……」
裕美は複雑な思いだった。
零子を巻き込まない為に戻って来たのに、逆に零子を巻き込んでしまった。
いや……その逆で私が囮にされたていたのだ……と、今になって気付いた。
「零子……ごめんなさい。 でもお願いだから来ないで……」
そう裕美は心の中で呟いていた。
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