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その日、零子は何だか落ち着かない様子でいつものベランダで風を見つめていた。
「零子……どうしたの? さっきから険しい顔しちゃって……」
「ん……何だか風の様子がおかしいんだ。まるで目隠しされてるような……」
その瞬間突風が吹いて、零子は私を庇うように駆け寄り抱き締めた。すると突然ベランダの方から聞き覚えのない声がしたの。
「このような所から失礼かとは思ったのですが、お邪魔しますよ、紘美さん」
突然現れたその男性は深々とお辞儀をした。同時に零子がその男性に向かって叫んだ。
「誰だ!」
警戒する私達に向かい、含み笑いを浮かべその男性はゆっくりと近づきながら答えた。
「これは失礼しました。
私は風間裕二と申します」
「かざま……?」
「ゆうじ……さん?」
その名前を聞いて私は突如思い出したの。 幼い頃から両親に聞かされていた許婿の名前――それが『風間裕二』その人だったの。
「そんな……何故今頃……?」
「貴方が大学院に行かれたと聞きまして、是非ともお会いしておかなければと……よもや両家の約束をお忘れになったのではないかと心配し、本日参上した次第なのです」
裕二の言う通り、私はすっかり忘れてしまっていた。 十八歳の誕生日を迎えたらその許婿と結婚しなければいけなかった事を……。
「どうやら、お忘れになっていたようだ。 いけませんね。
先程忠告をしたはずですよ? 楓嶋零子さん」
裕二は静かに語る口調とは裏腹に鋭い視線を零子に向けた。
零子は怯える様に裕二に振り向いた。
「どうなさいましたか? まさか聞き取れなかったのですか? 私の風の声が」
「風の声ですって?!」
「何故お前が!」
「何故私が風を使えるのか不思議ですか?」
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