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一時の沈黙を置いて、裕二は小さく溜め息をつくと、まるで零子を挑発するかの様に嘲笑した。
「『風を使えるのは貴女方風使いだけではない』と言うことですよ」
それを聞いた零子の顔つきが変わった。まるで何かに怯えるような、怒りを抑えているような目つきだった。
「我らの名は『風魔士』と言えばお判りになりますかな?」
『風魔士』
その名前を聞いた瞬間、私達の周りを強風が巻き始めた。
飛ばされそうになるのを必死に堪えながら零子を見ると、そこには怒りに我を忘れている彼女の姿があった。
私はなんとか止めようと揺すりながら何度も名を呼んだけれど、彼女には届いていないようだった。
「やれやれ……これくらいで怒りに狂うとは……。
まだまだ未熟者ですね」
そう言うと何やら呪文の様なものを唱えた。次の瞬間、零子の周りに風が集まり球体の様な空間になった。
「零子! 貴方! 何をしたの? 零子を離して!」
「心配しなくても、彼女はちゃんと生きてますよ。ただあの怒りを鎮める為に彼女を空間隔離して気絶させただけですよ。」
そう言い指を鳴らすと、球体の様な空間がゆっくり地に着くとかききえ、零子がその場に倒れこんだ。
慌てて抱き起こすと、裕二の言った通り、ただ気を失っているだけのようだった。
「今はまだその方に貴女を預けておきましょう。
日を改めて貴女のお迎えに参ります。その時は……」
零子を見つめながらそう言い終わると、すぐに私を直視して脅しとも取れる言葉を投げた。
「必ず従ってもらいますよ。でないと――。
それでは、今日のところはこれで……」
会釈をすると裕二はまた突風と共に姿を消した。
彼の出現と残していった言葉は、これから起きようとしている悲劇の幕開けだった事にその時の私は気付きもしなかった――。
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