紅魔館

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その代わりまた妖精がどこからか、たくさん集まって来た。昼間見ると、その妖精たちは働いてる振りをして、のんびりお菓子でも食べながら、ぐうたらしている。この館の上の空が、快晴で青空が広がっている時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。妖精は、勿論、館の中は快適だと思い、メイドを志願しに来るのである。 ――もっとも今日は、刻限が遅いせいか、殆どが寝ている。ただ、所々、掃除の行き届いていない、そうしてその行き届いていない箇所の絨毯の上に、お菓子の食べかすが、点々と白くこびりついているのが見える。 アリスは椅子が並べられてある客室の一番端の椅子に、スカートに折り目がつかないように手を据えて座って、右の肩に乗っている、上海人形を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。 作者はさっき「アリスが雨やみを待っていた」と書いた。しかし、アリスは雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、人形たちの待つ家へ帰る可き筈である。所がその人形たちは、四五日前から壊れたままであった。前にも書いたように、当時幻想郷は一通りならず異変が起きていた。今この人形遣いが、永年、使っていた人形が、壊れ続けたのも、実はその異変の小さな余波にほかならない。だから「アリスが雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられたアリスが、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この人形遣いであるアリスのSentimentalismeに影響した。申の刻下がりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、アリスは、何をおいても差当り孤独を紛らわす事でもできないかと思って――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから窓の外にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
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