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アリスは、上海人形を横へ控えさせ、その人形の左手を握りながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、魔理沙に弾幕を放たんとする意志を差し向けながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、アリスの心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき館の中で、この人形遣いには欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの図書館に入って、魔理沙を捕まえた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。アリスは、孤独になるか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの人形遣いの心もちから云えば、孤独などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
魔理沙の話が完ると、アリスは嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を弾幕から離して、魔理沙の襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、私が引剥をしようと恨むまいな。私もそうしなければ、仕方のない体なのだ。」
アリスは、すばやく、魔理沙が持っている魔導書を奪いとった。それから、足にしがみつこうとする魔理沙を、手荒く書物の上へ蹴倒した。図書館の入り口までは、僅に五十歩を数えるばかりである。アリスは、奪いとった檜皮色の魔導書をわきにかかえて、またたく間に頑丈そうな窓を破って夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた魔理沙が、書物の中から、その体を起したのは、それから間もなくの事である。魔理沙はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、窓の方まで、歩いて行った。そうして、そこから、長い金髪を倒にして、窓の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
アリスの行方は、誰も知らない。
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