紅魔館

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ある暮れ方の事である。 アリスという人形遣いが、紅魔館の中で雨やみを待っていた。 広い大広間の中には、アリスのほかに誰もいない。ただ、通路側の方では、メイドの格好をした、妖精が何匹か走りまわっている。紅魔館が、悪魔の棲む館である以上は、妖精メイドのほかにも、メイド長や館の主である吸血鬼が、館の中をうろついていそうなものである。それが、アリス以外には誰もいない。 何故かと云うと、ここ二三年、幻想郷では、紅霧とか長引く冬とか欠けた満月とか云う異変がつづいて起こった。そこで紅魔館での忙しさは一通りではない。幻想郷縁起によると、メイド長は主に命令されて、珍品をかき集めるため留守が多くなり、主も興味本位で、日傘をさして、博麗の神社に出かけて行ったと云う事である。主でさえもその始末であるから、紅魔館の警備などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその誰もいないのをよい事にして、門番が寝る、盗人が忍び込む。とうとうしまいには、暇を持て余している妖精を、この紅魔館で匿って、メイドとして雇ってしまうという習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪がって、この館の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
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