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雨は、紅魔館をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、窓から見上げると、窓の外のテラスが、斜につき出した手すりの先に、重たくうす暗い雲を支えている。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。選んでいれば、自分の家か、魔法の森の中で、孤独に打ち震えるばかりである。選ばないとすれば――アリスの考えは、何度も同じ道を低徊した挙句に、やっとこの館の中へ逢着した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。アリスは、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
アリスは、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上がった。夕冷えのする客室は、もう暖炉が欲しいほどの寒さである。風は館の壁の隙間と隙間の間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。通路を忙しく走っていた妖精メイドも、もうどこかへ行ってしまった。
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