紅魔館

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アリスは、頸をちぢめながら、肩に乗っていた上海人形を、ふよふよ宙に漂わせて館の中を見歩いた。雨風の患のない、人目にかかる惧のない、一晩楽にねられそうな部屋があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、大図書館に通じる、幅の広い、重くて立派な扉が眼についた。ここなら、何かがあるとしても、どうせ本ばかりである。アリスはそこで、操っている上海人形が先走らないように気をつけながら、その重そうな扉を、ゆっくりとこじ開けた。 それから何分かの後である。図書館の広いところにある、本が何冊か積み重ねられていた机の上に、一人の魔法使いが、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、ぐったり倒れていた。机の上からさすランプの火の光が、かすかに、その魔法使いの右の頬をぬらしている。長い紫の髪に、パジャマみたいな服を着たパチュリーである。 アリスは、始めから、この館にいる者は、妖精ばかりだと高を括っていた。それが、図書館の奥に行ってみると、奥では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井に揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この紅魔館の中で、火をともしているからには、どうせただの者ではない。アリスは守宮のように足音をぬすんで、薄暗い図書館の中を、一番奥のほうまで慎重に進んだ。そうして体を出来るだけ、平らにしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、奥の方を覗いて見た。
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